保存の意味と価値

★ 世界に・・・! 日本に・・・!


 「我 日本文化を愛す」の言葉を残してブルーノ・タウトは日本を後にしました。戦争という時代に翻弄される中で来日し、3年余りの時を過ごしたタウトは、「旧日向別邸」を完成させるや否や日本を離れトルコに旅立ちました。この間は短いものでしたが、その後の日本に長く影響を残すこととなりました。日本文化の真髄を模索し、その本質を桂離宮に見出し、その素晴らしさを世界に知らせしめたタウトは、日本の素晴らしさを日本人に気づかせてくれました。


★世界遺産が見出した「関連性」の美学

 平成20年7月8日 ブルーノ・タウト設計ジードルンク馬蹄形他3施設がユネスコの世界遺産に登録されました。この事が一つの切欠となり、タウトの建築理念が見直がなされ始めています。
機能主義の基をつくった代表でもあるブルーノ・タウトですが、人間が考える「機能」の限界を感じ、ユートピア思想(アルプス建築)では、現実(機能)に留まらない、精神的なるもの、夢なるものを常に併せ持つ必要性を打ち出しています。個・社会・宇宙の精神的同時性を「関連性」の中に見出し結びつける美学は、多様化し、部分化した現在を見直す手法として魅力的です。


★情念の宝箱

 旧日向別邸は小さな施設で、桂離宮を「世界における建築的な奇跡」と評し、日本の各地を訪れ、その精神と技術の確かさに、タウト自身の考えを重ねて造り上げた小さくも「輝けるクリスタル(形象)」です。それは、機能建築でみる「洗練さ」ではなく、情緒的で土着的な意味合いを強く伝えています。小さな狭い階段(トンネル)を下り、開かれた意外な光景(洞窟感への裏切り)、透かしによる誘導(期待感)、日本の材料「竹」による伝統の顕在化、社交室〜洋室〜和室〜ベランダに至る異質空間の「独自性」と「連続性」、巧みな色彩の施し、細かく丁寧な各部のディテール(詳細、納まり)等の要素が詰め込まれた宝石箱のようです。 来日して以来、建築設計を手掛けなかったタウトの情念が、一気に噴出したかのように感じられる旧日向別邸なのです。


★「保存」=「意味」に始まる市民力

 「摩訶不思議なる空間」と言える魅力的な旧日向別邸は、昭和9年竣工して早75年が過ぎて急激に老朽化しています。DOCOMOMO100選、篤志家取得と熱海市への寄付、重要文化財の指定と変遷する中、保存の重要性が認められつつも、老朽するのをくい止めるだけで精一杯の現状です。国民の大切な資産として、当時の状態に復旧し、タウトの思い、思想・哲学を肌で感じられるものとして、保存しつずけるようにしていきたい。 こうした思いの熱海市民が集い「旧日向別邸保存会」を設立し、市民、市行政、国、世界に広く呼びかけています。  「保存」すること自体が「意味」である。「保存」の過程がその意味も多様化し、様々な分野に波及し、歴史、文化、教育を養い培う。 「保存」を通して築かれる交流が、市民の力となり誇りとなて育ち未来をつなぐ。


旧旧日向別邸保存会(ブルーノ・タウト熱海の家)の目的

 本会は、指定重要文化財・旧日向別邸(ブルーノ・タウト熱海の家)の文化財価値を知らせしめつ活動とする傍ら、長期保存とそれに関する基金の提供を呼びかけ、観光都市熱海の芸術・文化の発展に寄与することを目的並びに活動とする。  (旧日向別邸旧日向別邸保存会会則 第2章)

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